新世纪大学日语 第二课课文I 课文II

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本文Ⅰ カラス



鉄道の線路の上に小石が置かれるという事件が続いたことがある。

線路への置石と聞けば、子供のいたずらかと誰もが考えるだろう。ところが、「カラスが石を加えて、線路の上に乗せているところを撮った」という人が現れた。警察の捜査員も張り込み中にその現場を目撃し、ビデオに撮影した。その様子が何枚かの写真となって新聞に掲載された。

こうして、線路への置石事件は「カラスの犯行」と断定された。しかし、カラスの犯行にしては巧妙すぎる。丸い石は転がりやすく、線路のレールの上にうまく乗せるにはかなりの努力と根気がいる。そんなことがカラスにできるのか。だれもが疑わずには居られないだろう。そんな人間の疑いを一掃するようなカラスの賢さを示す出来事が、最近次々と報告されている。

走っている車を利用してくるみを割るカラスの姿がテレビで紹介されている。カラスは道路にくるみを置いて、道路のわきで車が通るを待つ。そして車が通った後、割れたくるみの中からその実を拾いにやってくる。反対車線を車が猛スピードで通り過ぎるのも構わず、カラスは同じ行動を繰り返していた。

新聞にも面白い下着泥棒の記事が出ていた。ある女性が洗濯した下着を窓の外に干しておくと、針金のハンガーだけが取られてなくなり、下着のいくつか下に落ちている。なぜ下着泥棒はハンガーを持っていくのか。しばらくしてその真相がわかった。カラスが近所の木の上に巣を作っていたのだ。針金のハンガーを使って鉄筋入りの住宅を作り、内側に柔らかい物を敷いて住みやすくしていたというのだから驚く。

こんな話を聞くと、カラスが線路へ石を置くのも信じられないことではないと思われてくる。

最近都市部でカラスが異常に増えているという。都市鳥研究会の報告によると、都内の中心部だけで2万羽以上が生息しており、10年前の倍になったそうだ。

カラスは公園や墓地をねぐらにし、繁華街や住宅街のゴミをあさる。人間が出すゴミのせいでカラスは異常に繁殖したらしい。線路に石を置いたり、ゴミ箱をあさって通りをゴミだらけにしたり、急降下して子供を脅かしたりと、増えすぎたカラスは人間を悩ませている。

カラスの勝手気ままな行動に頭を悩ませているのは人間だけではない。このごろはツバメもカラスの攻撃を恐れ、表通りに作っていた巣を、店のひさしの内側や外壁の裏側など見えにくい場所へ移しているという。人間に慣れたカラスから身を守って生き抜くためのツバメの自衛手段なのだろう。

何かにつけマイナスイメージの先行するカラスだが、そんなカラスに公園で毎日のようにえさをやるおじさんたちがいる。

ハトやカモひゃ別の人がえさをやり始めると移動してしまうが、カラスは裏切らない、浮気をしないという。餌をやる人の顔を覚えているのだ。カラスは鋭い観察眼を持ち、用心深い代わりに、いったん信じると「義理」を大切にする。カラスおじさんたちが語るカラスの魅力は、「誠実さ」なのだそうだ。会社を退職したあるカラスおじさんは「カラスは憎まれて人気がなくても実はけっこう誠実な部下、そんな感じだね」と、カラスにサラリーマン人生を映して言う。

「鳥の世界の人間」といわれるほど利口なばかりに疎まれることの多いカラスだが、私たちは、そんなカラスに人間の姿を重ねて見ているのかもしれない。






本文Ⅱ 不況

ある夜―一人の青年が、残業を終え、くたくたになって家路を行く。公園の裏通りに来た頃、この青年、ハッとした。 「金をだせ」

ものかげから、現れた、サングラスの男。手には、闇夜にひかる出刃包丁。つまり、強盗だ。 「た、たすけてくれ……」

青年は、ふるえる手で、財布を渡す。そのとき、街頭のひかりでチラリをみえた。強盗の横顔―なんだか見覚えがある。青年は言った。 「課長?!……」

強盗は、びくっとして、青年を見つめる。そして、ポツリ、青年の名を言った。 「……ええ、そうです」

青年は答えた。強盗は、サングラスをとった。課長だった―つまり、この強盗、去年、他社に好条件で引き抜かれた、元上司だったのだ。

「課長、いったいどうしたんです?!どうして、こんなまねを?……」

「……すまない。転職した会社が、倒産してな……それから不運続きだ。女房は病気になる。再就職はうまくいかない。家のローンも払わんといかん。金が、金がいるんだ!金が……すまん」 「…………」

「この金は返す。今夜のことは忘れてくれ」

「そんな、いいんです。どうぞ、使ってください。課長がお困りなのに、ほってはおけません。まだ、足りなければ、後で連絡してください」 課長は涙を浮かべて、

「すまない。じゃあ、この金はおかりするよ……本当にすまない」 そう言い残すと、課長は夜の街を駆けていった。

一週間後―青年の自宅に電話があった。あの課長からだ。まだ、金に困っているらしい。青年に借金を頼んできた。数日後の夜、二人は、あの公園の裏通りで、会うことにした。 そして、約束の夜。

「すまない……君に迷惑かけて、元上司として情けない」 課長は頭をさげた。

青年は、ニヤリと笑って、カバンから出刃包丁を取り出した。 「な、なにをする?」

「あっ、これは、僕用です。課長のも、ちゃんと用意してあります」 「なにっ?!」

「実はね、今日、僕の会社、倒産したんです」 「えっ?!」

「また、課長と一緒に仕事ができるなんて、夢にもお世話になっております。もいませんでしたよ。ハハハハ」

青年はカバンからサングラスを取り出した。もちろん、課長のぶんも……


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