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海南大学旅遊学院 応用外語系 綜合日本語 高級閲読 原作閲読 ＬＧ 作家椎名誠しいなまこと：1944年東京生まれ作品多数 《社会は戦場 男は戦うべき》出自《場外乱闘はこれからだ》 東京駅から中央線に乗って46分のところの駅はつまり僕の愛用駅なのです。しかし別にこの駅が好きで好きで乗り降りしているわけではないから愛用というのは可笑しい。こういう場合何というのであったか、使用駅と言うのはちょっと可笑しいし、そうそうこれは単純（たんじゅん）に利用駅と言えばいいのであった。それでこの駅には私鉄が2線入っていて、駅前にはバス停があって、近くに大学や専門学校がいくつもあるので、朝も夕方も乗降客（じょうこうきゃく）が一杯なのだ。しかも古い駅なのでホームの階段は狭くて急で、したがってそのラッシュ時の混雑振り（こんざつぶり）といったらひどい有様（ありさま）である。 しかし学生が乗り降りする駅はたいてい何処も同じであるように、乗降客が集中する時間は極端（きゃくたん）に朝と夕方の一定の時間に限られており、国鉄が言うようにピークはわずか30分、なのです。30分の我慢というものだ。 朝と夕方の大混乱を過ぎると、東京郊外のこの駅の業務はきわめて静かなものになる。改札係（かいさつがかり）はいつものように無表情で切符を切り、キオスク（書報亭）のおばさんはいつもの様に黙って新聞や雑誌を売っているのである。そうして電車だけが忙しそうに走って来て少し停まり、そうしてまた忙しそうに走っていくのである。停まるのはそこで客を降ろしたり乗せたりするからである。 ところがなのだ。実際にはその日の一番最後に最も過激（かげき）な第三のピークが訪れるのである。朝と夕方が学生を中心とした若者達の「躍動する混乱」であるとすると、最終電車の第三のピークは中年おじさんを中心とした「咳と痰と喘ぎのこどくせきたんあえやくどう孤独なドタバタ混乱」であると言ってよい。 今のサラリーマンは郊外の駅からさらにまた大分離れたところに住居を持っている。土地高騰ローン逼迫四方八方の住宅難はサラリーマンの家をどんどん郊外の方へと追いやっているのである。だからその大多数のサラリーマンはバスや私鉄を利用して一番近い電車駅に来るのである。その電車で東京の中心地へ移動し、降りてからさらに歩いたり、バスに乗ったりして会社に着くのである。朝はいいけれど、酒を飲んだり、マージャンをやったりして遅くなると、バスや私鉄は比較的に早くなくなるのである。そうすると当然ですが、帰える足が無くなってしまい、ここに残された唯一の道として「駅前タクシー」と言うものが俄然（がぜん）大切な道具になりながら、赤いテールライト（尾灯）を光らせて見せるのである。深夜になるとタクシーの数もぐっと減ってしまい、昼間は客がほとんど居ないときは媚びるばかりし 1 ことちこうとうひっぱくしほうはっぽうじゅうたくなんじゅうきょこんらん 海南大学旅遊学院 応用外語系 綜合日本語 高級閲読 原作閲読 ＬＧ ていたが、そこでようやく攻守ところを変えて、続々と集まってくる客の中で「よーし、おとなしく並んでいたら乗せてやるからな」と言う態度を示すことが出来るのである。そして人々はその少ないタクシーにすこしでも早く乗ろう、早く乗って早く家へ帰って早く水飲んで早く布団敷いて早く寝なくてはならない早く早く、、、、、、と言う圧倒的な早く早くの人というものになってしまい、如何にすばやくタクシー待ちの列に並ぶかということだけにその人生のすべてを賭けて来るのである。 そしてその恐ろしいことに戦いはすでに電車の中から始まっている、サラリーマンは大抵、いつも使っている駅だから電車が停まる一番階段に近いところのドアを知っておりますね。だから目的駅の一つか二つ前辺りになると、そのドアめがけてさり気ないようであるけれど、次第に次第に人が集まってくるのである。終電車でそんなに込んでいるでもない車両の中で、そのドアのところだけにじわじわと人が集まってくる。異様（いよう）である。 めざすドアのところには夕刊を広げ、いかにも私はへべれけ（酩酊大酔）で、もうだめというような格好をしているおじさんが立っていたりするのだが、こういう人が反って危ない、もうだめと言う格好を見せて相手を油断させて、ドアが開くとバット素晴らしいダッシュ（沖刺）で飛び出していく、というようなケース（状況、情形 ケースバイケース具体状況具体分析）もある。 深夜のタクシー待ちは一人遅れを取ると最低2分から3分ぐらいの待ちを覚悟しなければならない。ひどいときは一人の差で15分待つ、と言うことでもざらにある。五，六人に後れを取ったらそのまま寒風の中に30分は待たなければならない。北風の中で次第に酔いは醒めて来て、コートのポケットの中に百円玉をちゃらちゃらと握り締めたり数えたりしていると、それはやがて人生的悲しい気分になっていくのである。 だから、終電車の酔っ払いサラリーマンたちは、そこでその日最後の力を使ってかんぜんかぞくぞく敢然と「人間の決勝」をしなければならないのである。紙袋やかばんをしっかにんげんけっしょうりと抱え、ドアが開いたと同時に「うおうーう」というような声にならない声を上げ、おじさん達は全力でどたどたどたと階段を駆け上がり、ホームを疾走し、改札ゲートを突破し、午前零時の闇の中を走っていくのである。 ほとんどの人が酒を飲んでいるから、走りながら唾や痰を撒き散らし、中には咳き込んでいる人も居たりして、それでも皆必死になって走っていく。運動不足サラリーマン達の深夜過酷なデスマッチなのである。 時々飲みすぎてとても走っていく元気がなくなって、ああ、もういいよ、どうなってもいいよ、と捨て鉢（放棄自棄）な気分でゆっくり歩いていくときもある。自分 2 すてばちかこくまきちらしとっぱごぜんれいじやみなか 本文来源：https://www.dywdw.cn/d14f9dbff121dd36a32d826e.html
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2023-05-07
