いい思い出

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いい思い出

いい思い出

この懐かしさに溢れている文章を読んで、私、つい遠い昔のことのように自分の幼い日のことを思い出されました。今から見ると、それはどんなにつまらなかった日々でしょうが、そのときの私の世界にはおもちゃ、遊園地、パソコンといった今の時代の子供にとって欠かさないものは何一つもありませんでした。テレビもろくに見られませんでした。家のテレビはよく壊れていましたから。しかも、親も生活を立てるために忙しくて、修理にも出してくれませんでした。しかし、あの物資に乏しい時代にも、私、自分なりに生活を楽しむことができました。

そのとき、弟は私のいい友であると同時に面倒な友でした。物心がついたころからずっと弟と一緒だったと覚えています。あのとき弟はまだ幼くて一人にさせるわけには行かないし、親も一日中弟の世話をする余裕がなかったので、当然のこと、私は学校が休みになるといつも親に弟を連れて遊びに行きなさいよといわれました。ほんとのことを言うと、そんなに小さい弟を連れていてはどこへもいけません。それに一瞬とも彼の身から目が離せません。何かあったら大変なことになりますから。もちろん、まだ九、十歳未満で遊び盛りだった私は、何度も弟を危ない目に遭わせたこともありました。こうして、同じ村の子供たちとろくに遊びもできないままで、そんな日々に弟が私の一番親しい遊び相手になりました。日差しが部屋のベッドまで差さないと起きないタイプの私は、いつも早起きの弟の『お姉ちゃん、お腹がすいた』の呼び声に起こされちゃいました。私が起きると、親がもうとっくに畑へ働きに行っていました。母はちゃんと朝ごはんを準備しておきましたが、弟はお腹がすいてもいつも私が起きるのを待って一緒に食べることにしていました。親が出かけた時から私が起きるまで二時間くらいもありましたが、この時間で三、四歳の弟はいつも忙しそうに何かをしていました。初めてそれに気がついた時、私はとても知りたい気持ちになりました。こうして私たちの一日を始めました。こんな雰囲気で、弟や蟻を観察したり、雨あがりの空を仰ぎ見たり、(――残念なことに、一度も虹を見たこともなかったですけど…)、夕方、畑から帰る親を迎えたりして、どんな些細なことでも弟と一緒にやって平凡な日々を送っていました。別に何か目立ったこと、新鮮に感じられることもないごく普通な暮らしですが、ただこんな穏やか、無邪気、単純な気持ちで単純な生活をした日々を懐かしく思います。

私は今まで小さいころのことを封じたようにあまり思い出しもしませんでした。それに他の人にも一度話したこともありません。しかし、思い出を思い出したら、良い思い出であろうと怖い思い出であろうと、自分の人生の大切な体験ですから、懐かしく感じます。こんな時、私は弟との間の絆がもっと深くなったような気がします。




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